県は移住促進に超積極的で、PR制作案件をガンガン立ち上げている。ものすごい予算規模で動くいわゆる公募案件はもちろん、僕のような個人を招集するプロジェクトも多い。コロナ禍の影響はもちろんあって、夏以降一気に動き出しているものがほとんどで、撮影の都合上、本格的な冬がやってくる前に現場仕事を終えるべく、怒涛のようなスケジュールが組まれていく。そういうときはスッと動けるような機動性の高い個人クリエイターは活用しやすいだろう。

ある程度丸投げみたいなものには慣れているというか、むしろ丸投げしてくれた方が動きやすいことの方が多いので、それ自体は苦ではないけど、中には爆弾案件みたいなものがあって、例えばスケジュールや香盤がグダグダになっているものや絶対にぶれてはいけない企画主が右往左往してしまうものだ。それなりに複数の案件を抱えているとそういうものにも出くわすのだけど、トランプのジョーカーみたいなものだとか思いながら自分を宥めたりしている。とはいえ危険な香りがするものは末端の制作者にしわ寄せが来るので黄色信号が点滅した瞬間にはっきり伝えるし、ときには理由を伝えて離脱することもある。こういうのは経験によってジャッジする他ない。僕くらいの年齢でそれが相手に言えないのはむしろ痛い。

コロナ禍が続く中、どうやって起業したらいいかとか、商売スタイルをどうしたらよいかみたいなことを悩む人がいるみたいだけど、僕が真面目に思うのは「自分だけのスキル」を作るのが一番強いということだ。料理でも、大工でも、デザインでも、車のカスタムでも、絵でも、アウトドアでもなんでもいい。一点、「これを頼むにはあいつだ。」と言ってもらえるレベルまで頑張る。強い個人になるにはどうしたらよいかを考えたらスキルを持つ以上に強くなる方法はないんじゃないか?

今スキルを学ぶことははっきり言って容易い。人類史上もっともスキルを学べる時代だ。しかも好きに自由に安く。かつては『寄らば大樹の陰』だったことは否めないけど、もはや大きなものに所属することは目指すことではなくて、個人のスキルや活路を見出す方面に寄せて行った方が吉で、自分の子どもの教育もそこを指針にしている。「群れなくてもいいんだよ」と。

「AIでなくなる職業」とかよく目にする。メディアも妙に煽ってるけど。自分の経験や日々仕事をしていて周囲を見て思うのは中途半端なポジションで仕事をする「仲介業者」は能力がないと淘汰されるだろうなあとは思う。仲介業というポジションを否定することはしないけど、「リスクを抱えないことが安全」と思っているんだろうなあと感じることはある。リスクを抱え(られ)ない仕事ってやっぱりそれなりの存在感になる。例えば優秀なクリエイターは仲介業者がする動きをすべて一人でやってのける。田舎は秩序を重んじるからそこまではしにくい面があるけど、一歩外に出て見るとそうやって切り拓いていく人はいるし、これからもっと増えるのは間違いない。市場はより個人に向けて自由に拓けていくだろう。時代は動き、保守から脱却していくモメンタムは止められない。

逆に「企画・仲介業のプロ」とも仕事をするけど、実に円滑にモノゴトを進める人や集団で、これは頼もしく思うことすらある。安心して自分の担当領域に集中できるし、「またこの人たちと何かやりたい。」と思わせてくれるなにかがある。ああ、つまりプロフェッショナルになりきれたら強いということだ。クリエイター業のリスクはシンプルにクオリティ。イコールその人の実力と信用。クオリティで相手を満足させられなければ間違いなくリピートされることはない。レスポンスが実に早いし、わかりやすい業種だ。

 

一本の映像を作った。

 

浜田の三隅。折居という海岸から山間部に上がっていくところにある吉原木工所のPR映像だ。私的にも知り合いだった吉原敬二さんをメインに撮った。彼はこれまでなかなか僕のことを憶えてくれなくて「江津でコーヒー屋さんをやってる人ですよね?」と何回か言われ(笑、その都度自己紹介をしたつもりだったけど、それでもあんまり憶えてくれていないようだった。今回の撮影で僕が思っていたのは「よし、これで彼は僕が何をやっているやつかわかってくれるだろう」ということだった。それが今作の個人的なモチベーションだ。

彼のインタビューは1時間以上収録した。とても数分の映像で伝えられるものではないけれど、共感するのは「自分にとっての幸せがどこにあるのかわかっていること」と「自分の仕事をなぜ誇りに思えているのかを自分で説明できる」こと。こういうことを言語化できる人だからセールスに強いんだろう。セールスとは自社商品を通じた自分の意思を伝える能力でもある。決して安いとは言えないものを売るには作り手の意思も伝える必要があり、製品が持つ美しい世界観で相手をやさしく包み込むようなそういう能力が必要なんじゃないか、と彼の発する言葉を聞いていて思った。

彼と彼の事業は「これを頼むにはあいつだ。」と言ってもらえる強烈な個性がある。コロナ禍とはある種無縁な、地平線が見えている人がここにいた。プライベートな彼しか知らなかったから仕事をしている表情や身のこなしを見たときに結構痺れた。やっぱり仕事モードの男は格好いい。そして自分の仕事が好きで誇りを持っていること。

そんな彼の語り口調と彼がやっていることをぜひ観てください。