In Diary

 


実に13年ぶりのU2の日本公演。このイベントのために家族全員で東京入りを計画し、ついにその日がやってきた。会場は2006年と同様にさいたまスーパーアリーナ。日本公演は2日間のみで、言わずもがな両日のチケットを確保した。

初日は大学時代の親友と。スタンディングブロックからサブステージが近く、冒頭5曲の演奏を目の前で見ることができた。ショーの内容は2017年のときからウェブでチェックしていたけれど、生(LIVE)に勝るものはなく、ひたすら圧倒された。グレイトなロックンロールショーのはじまりに胸が踊る。何せ本物のU2がすぐそこにいるのだ。

真っ赤に染まる巨大スクリーンをバックに『Where The Streets Have No Name』のイントロのギターが鳴る。会場は興奮の坩堝の化した。このときの4人の勇姿を観て思わず涙腺が緩んだ。でも待てよ、これは感動だけの涙じゃない。

 

しばらくの間、ステージを見ながら僕は八王子の中学生だった14歳にタイムスリップした。

同級生にカセットテープで『Rattle and Hum』を聴かせてもらい、U2を知った。そしてロックミュージックの衝撃を受けた。小遣いのほぼすべてを握りしめ、自転車で近所のCDショップに『The Joshua Tree』とVHSの『魂の叫び』を買いに行った。U2という音世界に感動し、それ以降僕の人生にかかすことのできないアイテムで自分にとっても「歴史的名盤」となった。CDからカセットテープに落とし、いつどこに行くにもカセットプレイヤーの中に入れて、まさに擦り切れるまで聴いた。

(「Trip Through Your Wires」の前のMCで「カセットテープだったらちょうどこの曲のところでA面とB面をひっくり返して..」というMCにニンマリした人は多いだろう。ちなみに僕がCDから落としたときのB面の1曲目はRed Hill Mining Townだったけど。)

 

 

とにかくこのアルバムの世界観に心を鷲掴みされた。虜になった。このときの感覚は” 30年経った”今でもよく憶えている。ファンの間ではヨシュアか?アクトンか?はよく楽しく議論されるけど、僕の場合は前者だ。音楽的にどうのというよりは「出会いとご縁」なんだとは思うけれど。印象的な出会いは上書きされることはなく、ずっとそのままでいる。

あれから30年、当時27,8歳だったU2は60歳を前にして僕の目の前で-そして日本で-このアルバムを全曲プレイしている。ノスタルジーだけではない、ともに歳をとっていった時間の経過に対して、今も尚シーンの最前線でプレイしている彼らの強烈なアティチュード、何よりボノの、まるで世界をひとつに包み込んでくれるような愛にあふれる眼差しと、MCで触れる数々のメッセージに涙が止まらなくなった。こういうところは世界中にいる熱狂的なU2ファンと強烈に繋がることができる部分だと思う。(名曲”Bad”は先日命を失った医師・中村哲さんに捧げられた。無名有名問わず、社会活動に尽力している人たちをボノはいつもステージ上から讃えている。)

 

1988年に発売されたBON JOVIの『NEW JERSEY』もその当時よく聴いていたアルバムだった。CDの中にあるライナーノーツは音楽評論家の伊藤政則氏によるもので、そこには「ボン・ジョヴィと同じ時代に生きていることを神に感謝したい。」とある。「好きなアーティストのことをそんな風に思う人がいるんだなあ」と、そのフレーズがやけに印象に残っていて、急に思い出した。(ちなみに僕は伊藤政則氏の文章がとても好きだ。)

この公演を体験した今、僕は「U2と同じ時代に生きていることを神に感謝したい。」と大きな声で言いたい気持ちだ。

僕はいつだって彼らの音楽によって心を支えられてきた。10代から20代、そして様々な経験をしながら社会人として歳を重ね、楽しいときも悩めるときもどんなときにも僕にはU2の音楽がそばにあった。そんな風に言える音楽アーティストは僕の場合、U2をおいて他にない。そしてこれからそういう出会いはきっとない、と思う。そこにはファンとして一緒に過ごしてきた長い、長い時間があり、僕の感受性を育ててくれたからだ。今回の『The Joshua Tree 30th Anniversary』は僕にとっても30周年なのだ。

 

 

「懐メロ」の本質は「自己との対話」だと僕は考えている。43歳の僕は14歳の僕に「いい音楽を見つけたね。君はこれから彼らの音楽とともに歩み続けることになるよ。大丈夫。ずっと君をいい気持ちにさせてくれる素晴らしいバンドだ。」と言ってあげたくなる。先の涙はこういう「自己との対話」から出た涙だと思う。タイムカプセルだ。

U2が僕にもたらしてくれたものを書いておきたい。

実に月並みな表現だけれど、「愛と勇気」である。前向きに生きていくこと、自分の意思と信念を持つこと、そしてそれを信じ続けること。心で思っていることに忠実であり続けようというポジティブな気持ちは彼らの音楽を浴びているときに培われていったものだ。

どこかで人前に立つ時や、仕事で勝負する瞬間、いくぞ、とスイッチを入れるその時に脳内でU2が鳴ることがある。そういうことは幾度となくある。ボノからパッションを少し拝借しているのかなと思っている。大事な瞬間、彼らが僕の背中を押してくれるように感じることがある。好きだからそういうことになるんだろう。(そしてこんなことを恥ずかしげもなく書けるんだろう。)

ありがとう、これが僕にとってのロックンロールのパワーなのだ。ちょっとクレイジーなことを書いているけれどもそうさせるほどの2日間だったということだし、彼らから放たれているロックの魂はそれくらい人の心を動かすのだ。

異性に限らず、人を好きになる気持ち、その人を大切にしようと思う気持ち。彼らの音楽に幾度となくそういう気持ちにさせてもらっている。愛を持って接すること。ロック・ミュージックにはパッションとかエネルギーという人間の心の中深くにあるものを掘り起こし、放出する不思議な力がある。そういう意味でU2は世界を変えたんだ。

 

2日目は妻とスタンド席から観た。1曲目にラリーミューレンJr.が登場し、Sunday Bloody Sundayを叩きはじめたその瞬間から涙が止まらない。Prideでも、Badでも、美しいOne Tree Hillでもずっと涙が流れた。我ながら「感傷的になったな、歳とったってことかな」とも思った。きっとそうだろう。…まったく彼らはとんでもない存在だ。

同じように感じているオーディエンスもこの会場に多いだろうと思う。そんな人たちとともにこの素晴らしい時間を過ごすことができて心から幸せな気分でいる。

この先もずっとU2が好きだ。

 

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